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仙台高等裁判所秋田支部 昭和37年(ラ)8号 決定 1962年12月12日

抗告人 平田猛郎(仮名)

相手方 平田市郎(仮名) 外一名

主文

原審判を取り消す。

抗告人は、相手方等各自に対し、金二万七千七百五十円をそれぞれ支払い、かつ、昭和三七年一二月からその死亡にいたるまで一ヵ月につき金三千円を毎月末日限りそれぞれ支払え。

理由

本件抗告の趣旨と理由は、別紙のとおりである。

よつて検討するに、原審における調査の結果、当審における抗告人および相手方市郎に対する各審尋の結果によると、相手方市郎とその妻である相手方タミとは抗告人(相手方等の長男)所有家屋に居住し、抗告人とは生計を別にして共同生活しているが、相手方市郎は七四歳、相手方タミは六二歳で共に老令のため稼働能力なく、相手方市郎は田一反四畝一一歩、畑二反五歩、宅地一二坪、原野二反七歩、山林一反七畝一六歩を所有し、一二〇名余りの部落民と共に山林を共有し、また一〇名余りの部落民と共に土地を共有しているが、右田はその大部分が生産力劣悪のため借り手もないまま放置され荒廃しているので、右資産からの主な収益は、東北石油株式会社に賃貸している土地の年間賃料約一万円、右共有土地中の畑約一反歩および自己所有の畑約七畝の各耕作により収穫する野菜であつて、相手方両名の生活を維持するには、右収益のほかに、相手方一人について、主食費、副食費、衣服費、燃料費、小遣銭等として一ヵ月少なくとも金三千円を必要とする状態にあることを認めることができる。抗告人は相手方等は東北石油株式会社から年間四万円余を得ていると主張するが、これを認めるに足りる証拠は全くなく、また当審における抗告人に対する審尋の結果中には相手方市郎は右共有土地の収益から年間千円の配分を受けているとの供述があるが、この供述は当審における相手市郎に対する審尋の結果に照らしたやすく措信できず、相手方等が扶養を必要とする状態にあることは明白である。しかして、前掲証拠によると、抗告人にはその妻との間に三男、二女(長男一五歳、二男一三歳、長女一〇歳、二女八歳、三男六歳)があり、抗告人は田八反八畝二八歩、畑二畝一歩、宅地二八一坪、原野四反一三歩、山林一町四反一畝一三歩、家屋を所有し、その資産からの主な収益は、右田には一部侵水しやすい箇所があるが、水稲の生育を不能とするほどのものではなく、全体としては年間約米七〇俵の収護があり、東北石油株式会社に賃貸している土地の賃料として年間金四万八千五百三十二円の収入もあるほか、昭和三六年一二月以降はそれまで相手方市郎が右会社から取得していた賃貸土地の年間賃料約四万円のうち約三万円を抗告人において取得することになつたことを認めることができる。もつとも、記録編綴の電話要旨書によると、抗告人は昭和三十七年四月一一日昭和町豊川農業協同組合から耕地取得資金として金十五万円を借り受け、同年一一月六日これを元金十五万円、弁済期昭和三八年一一月三〇日、利息日歩三銭五厘の借用証書に書き替えていることを認めることができる。抗告人は、このほか、昭和三七年二月当時において金二十五万円の負債があると主張し、当審における抗告人に対する審尋の結果中には合計二十二万円の負債がある旨の供述があるが、その供述にはにわかに信を措きがたく、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。そして、右抗告人の資産、収益、家族、構成、負債内容からみると、抗告人は子として相手方各自の前記扶養の必要をみたしうる扶養能力を有するものと認むべきである。そして、原審判理由記載と同一の理由により抗告人を順位最先の扶養義務者と認めるのが適当であり、前記の扶養の必要、扶養能力、抗告人と相手方等との身分関係その他諸般の事情を考慮すると、扶養の方法は金銭支払によるのが相当であり(原審判は米の現物支給と金銭手払とによる扶養を命じているが、食糧管理法第九条、同法施行令第八条、同法施行規則第三八条、第三九条、同法の施行に関する件八によると、何人も原則として政府以外の者に米穀を譲り渡してはならないとされているから、扶養の方法として米の現物支給を命ずるのは相当ではないと認める。)、扶養の程度は、当審における相手方市郎に対する審尋の結果によると、相手方等は抗告人から昭和三六年一二月分から翌年一〇月分までの扶養料としてすでに一ヵ月につき相手方各自に対し七升五合、その合計一斗五升の割合による米の支給を受けていることを認めることができるので、この事実をあわせてしんしやくすると、抗告人は、相手方等各自に対し、扶養料として、(1)昭和三六年一二月から翌年一〇月までは一ヵ月につき金二千二百五十円を毎月末日限り、(2)昭和三七年一一月から相手方各自の死亡にいたるまでは一ヵ月につき金三千円を毎月末日限りそれぞれ支払うべき義務あるものと認めるのが相当である。それ故、すでに扶養の時期を経過した昭和三六年一二月から翌年一一月までの相手方一人についての扶養料合計二万七千七百五十円は、抗告人においてこれを相手方各自に対し即時に支払わねばならない。

以上の次第であるから、右認定と異なる原審判はその限度で不当と認められる。よつて、家事審判規則第一九条第二項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 林善助 裁判官 佐竹新也 裁判官 篠原幾馬)

(抗告理由省略)

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